【代表野村厳選】世界のカーボンニュートラル企業

Cemvita Factory(アメリカ・ヒューストン)

世界各国が産業活動による二酸化炭素排出量削減に尽力していますが、真の持続可能性を達成するためには、従来の「排出量をいかに減らすか」というアプローチを超えた革新的な発想が求められています。
近年、産業界から排出される大量のCO2を「廃棄物」として処理するのではなく、経済的な価値を持つ「資源」として捉え直すパラダイムシフトが世界中から注目を集めています。この劇的な転換を最先端のバイオテクノロジーでリードしているのが、米国ヒューストンに拠点を置くスタートアップ、Cemvita Factoryです。
同社は微生物を働き手として利用することで、大気中や産業排出源から回収したCO2を高機能な燃料や化学中間体へと変換します。これは従来の化石燃料由来の化学製品生産プロセスと比較して、圧倒的に低エネルギーかつ低炭素なCemvita独自のバイオ技術です。
この技術は、地球環境の保全に貢献するだけでなく、持続可能なサプライチェーンと大規模のクリーンな化学製品市場の創出に役立ちます。

なぜCemvitaが注目に値するか

米国発のCemvia Factoryとは

Cemvita Factoryは、米国テキサス州ヒューストンで2017年に設立されました。彼らの技術的なアプローチの核となっているのは、合成生物学とカーボンテック(二酸化炭素を回収し、それを有用な素材や製品に変える技術)の融合です。同社が目指すのは、地球規模で排出されるCO2を「回収」「変換」「貯蔵」し、そこから高付加価値な製品へと変換させる、完全なイノベーションエコシステムの構築です。この壮大なビジョンこそが「廃棄物としてのCO2」を「無限の資源」へと捉え直す、新しい炭素経済の基盤を築きます。
Cemvitaの技術が、従来のCCU(二酸化炭素回収・利用)技術と一線を画す最大の点は、その圧倒的なエネルギー効率にあります。一般的なCCU技術はCO2を有用な物質に変換するために、高温・高圧という過酷な条件と大量のエネルギーを必要とします。一方でCemvita が開発したバイオプロセスは、微生物の力を利用することで、常温・常圧という穏やかな条件下で反応を進行させることができます。このアプローチにより設備投資と運転コストが劇的に低減し、プロセス全体として実質的なカーボンネガティブの実現につながります。

次世代の燃料と化学品

前述のように、Cemvitaのイノベーションの核心は排出されるCO2やその他の炭素廃棄物を高価値な製品の原料として捉え直す点にあります。この「CO2利用事業」の具体例は以下のとおりです。

持続可能な航空燃料(SAF)原料製造:特別にエンジニアリングされた微生物が、CO2や炭素廃棄物を効率的に吸収・変換し、SAFの原料となる炭化水素を生成します。これは微生物の代謝経路を遺伝子組換えによって操作(微生物が本来持っていない遺伝子を外部から導入)することで目的の化学物質を効率的に生産させます。この技術の商業的確実性は、ユナイテッド航空(米)との間において、20年間で最大10億ガロン(約37億8,500万リットル)のSAF原料供給に関する長期契約を締結したことで証明されています。(出典元:CemvitaUnited to buy up to 1B gallons of sustainable aviation fuel from syn-bio company Cemvita」)

バイオエチレン(プラスチック前駆体)製造:遺伝子組換え微生物のCO2分解反応を利用して、プラスチック製造に不可欠な基礎化学品であるエチレンを製造します。このバイオエチレンはカーボンネガティブになると見込まれており、試算によると年間170万トンのCO2を利用して最大10億ポンド(約45万トン)のエチレンを製造できるポテンシャルがあります。(出典元:製品評価技術基盤機構「バイオエコノミー社会実現に向けた CO2固定微生物についての活用調査 調査報告書」)

地下資源と既存資産を脱炭素化に活用

Cemvitaの技術は、化学品製造だけでなく環境負荷の大きい重工業、特に鉱山産業とエネルギー産業の脱炭素化と環境課題解決にも用いられています。この分野は、スピンオフ部門である「Endolith」と「GoldH2」が主導しています。

Endolith(バイオマイニングと環境修復):微生物の力を活用し、鉱山産業が長年直面してきた環境問題や資源回収の課題を解決します。微生物を設計し、酸性鉱山排水のような有毒物質や重金属を水中で選択的に吸収させ処理することで、強酸性であった廃水のpH値を2から8へと安全なレベルに上昇させることが可能です。ある技術経済性評価では、この技術を用いることで50年かかる廃水処理を5〜6年以内に処理することができると示されています。(出典元:The Global CCS Institute Youtube「CCS Tech Talk – Moji Karimi, CEO, Cemvita Factory」)

Gold H2(地下資源を活用した水素生産):この技術は、枯渇した石油・ガス貯留層などの既存インフラを最大限に活用するものです。既に掘削されている井戸を通じて特殊な微生物と栄養剤を貯留層内に注入することで、この微生物が地下に残存する炭化水素を消費し、その代謝プロセスによって水素を生産します。この手法の最大の利点は、既存の掘削インフラを再利用できる点にあり、これにより新たな開発投資を大幅に削減し、迅速な商業化と脱炭素化の推進が可能となります。

競合と成長可能性

Cemvitaの競合企業の動向

CO2活用分野には、LanzaTech(米)やSynata Bio(米)といった、産業排ガスを原料とする「ガス発酵」技術のパイオニアが商業化もリードしています。
LanzaTech社はこの分野で1,300件以上という圧倒的な数の特許を保有する、ガス発酵技術のパイオニアです。同社は、鉄鋼プラントなどから排出される一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)を含む産業排ガスを回収し、独自の嫌気性細菌を用いてこれをエタノールやジェット燃料といった高価値な化学品へと変換する技術を商業展開しています。すでに世界各地で6つのプラントを稼働させており、この技術における大きな事業規模と実績を誇っています。Synata Bio社も同様にCO2を豊富に含む廃ガスや合成ガスなどの廃棄炭素を原料とする事業を展開しています。独自のガス発酵技術を活用することで、エタノール、エチレン、プロピレンなどの循環型化学品を効率的に製造します。この革新的なアプローチにより、Synata Bioは製品1トンあたり2トンのCO2排出を削減し、循環型経済への移行を推進することで地球規模での環境課題解決にも貢献しています。
LanzaTechやSynata Bioが産業排ガスを主な原料とする「ガス発酵」という比較的確立された技術で優位に立っているのに対し、Cemvitaは、常温・常圧のバイオプロセスと多様な事業展開で差別化を図っています。

Cemvitaの競争優位性と商業化のリスク

Cemvitaの最大の強みは、合成生物学と工学的に改変された微生物を活用した独自のプラットフォームにあります。また競合他社が主に排ガスを原料とする燃料や化学品製造に注力しているのに対し、Cemvitaはエネルギー産業、マイニング、地下資源製造といった重工業全般にわたるソリューションを展開しています。これらの要素により、Cemvitaは低コストな製造条件でより広範な産業の脱炭素化を目指す次世代のソリューション提供企業としての地位を確立しています。
一方で、その革新的なソリューションを大規模な実用化へと移行させる過程には、特有の商業的および実行上のリスクが存在します。最大の障壁は、そのカーボンネガティブな価値にかかわらず、原油価格の変動や不況といった市場環境の影響を受け、化石燃料ベースの製品との間でコスト競争力を証明し維持する難しさにあります。また、すでにLanzaTechのような企業が先行しており、技術をラボスケールから大規模な産業スケールへと拡張する際の実行リスクや、それら競合に対して生産量やコスト効率で後れを取ることは市場におけるシェア獲得を脅かす重要なリスクとなります。

最近の動向

世界初、工業規模でのバイオ変換プラント建設

2025年8月には、ブラジルのリオグランデ・ド・スル州にバイオ変換技術を工業規模で活用する世界初の生産施設の建設を正式に決定しました。このプラントは、特に持続可能な航空燃料SAFの原料となるFermOilの製造に焦点を当てています。原料としてバイオディーゼル製造の副産物である粗グリセロールを使用することで、低コストかつ低炭素なSAF供給を可能にします。

Be8との提携によるサプライチェーン構築: 2025年1月、Cemvitaはブラジル最大のバイオディーゼル生産者であるBe8と提携しました。この戦略的提携により、Be8からの粗グリセロールの安定供給と、CemvitaのFermOil生産が一体となった完全に統合されたサプライチェーンが構築されます。これにより、ブラジル国内で極めて効率的かつ持続可能な生産体制が確立されます。

「未来の燃料法」の制定: 2024年に制定されたブラジルのこの法律は、バイオディーゼルの混合比率拡大とSAFの導入を義務付けており、Cemvitaが参入する持続可能な燃料市場の需要を確定的に高める強固な市場基盤を提供しています。

大手日系グローバル企業との戦略的連携

Cemvitaの技術は、日本の主要な重工業・総合商社からも高い関心を集め、戦略的なパートナーシップが構築されています。

三菱重工グループ:2021年10月、エコシステム構築の重要な柱としてCemvitaに出資を行いました。同グループはCemvitaの技術を経済性が高くクリーンなソリューションと評価しており、CO2転換利用におけるポートフォリオを拡大することでカーボンニュートラル社会の実現を加速させることを目指しています。

米州住友商事: 2021年5月に設立された環境対応ビジネス専任組織「グリーンケミカル開発室」の出資第一号案件としてCemvitaに出資を行いました。連携の主要な焦点は、Cemvitaが保有する微生物によるCO2の分解反応を活用したエチレン製造です。住友商事は、非化石燃料由来のエチレン製造技術の確立を支援し、石油化学分野におけるカーボンニュートラル化と堅調なエチレン需要への対応の両立を目指しています。

スケールアップへの挑戦

CemvitaはCO2利用技術の商業化を加速させるため、2023年より本拠地であるテキサス州ヒューストンにパイロットプラントを設立・稼働させています。容量14,000ガロン(約53,000リットル)以上を有するこのプラントの稼働は、ラボスケールの成果を、大規模な商用スケールへ移行させるための重要なマイルストーンです。ここでは、炭素排出物を原料とし、微生物のバイオプロセスを通じて、肥料、プラスチック原料、メタン、燃料など、多様な高価値製品を製造するための技術開発と実証が行われています。

日本とCemvitaとのシナジー可能性

日本のスタートアップへの刺激

Cemvitaは2017年に設立されたスタートアップであり、その大型契約の獲得や迅速な商業化への移行は、日本のバイオ系スタートアップにとって具体的な事業展開のモデルになると考えられます。日本国内においても水素酸化細菌等を活用したCO2の資源化に取り組む企業があり、Cemvitaの動向は技術開発の焦点や大規模なパートナーシップ戦略、迅速なスケールアップの重要性を示しています。

日本市場への参入可能性

Cemvitaはすでに三菱重工業や米州住友商事といった日本の主要企業からの出資と連携を通じて、間接的な参入を達成しています。Cemvitaのビジネスモデルが主に技術のライセンス供与や共同開発を通じたパートナーシップに基づいていることから、日本に物理的な製造拠点を設立するよりも、まずは現在の出資者を通じ、日本の製造業や化学産業のCO2排出源に合わせたソリューションを提供することが日本市場への影響力を拡大していく上で効果的です。

日本の大手企業とのビジネスシナジー

Cemvitaの技術プラットフォームは、日本の大手企業の資本力、インフラ、工業的なエンジニアリング経験と組み合わせることで大きな相乗効果が期待できます。CEOのMoji Karimi氏は、パートナーシップを核とし、企業が技術を大規模に適用することに関心があると述べており、「(Cemvitaが)エネルギー企業にとってのイノベーション部門となるよう、共に働く」という戦略を明確にしています。これらの連携が実現すれば、技術の迅速なスケールアップが可能となり、日本国内のCO2資源化の拠点として経済性と環境負荷低減を両立させるソリューションが提供できるでしょう。

まとめ

Cemvita FactoryはCO2を有益な化学製品に変えるという革新的なアプローチにより、気候変動対策と資源循環経済の実現に大きく貢献する可能性があります。合成生物学という先進技術に基づいた同社の取り組みは、持続可能な化学産業の未来を切り開くものとして今後の動向に期待が寄せられます。

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