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カーボンプライシングは日本でいつから導入されている?現状の課題は?

カーボンプライシングは、CO2などの温室効果ガスに値段をつけることを意味し、温室効果ガス削減を促すために注目されている手法の1つです。

一般にはあまりなじみのない用語かもしれませんが、カーボンプライシングは日本では2010年より導入開始されております。

ただ、具体的にどのような取り組みがなされているかよくわからない方もいるかもしれません。

また、カーボンプライシングにはメリットも課題もありますが、それらも整理しておくと、今後カーボンプライシングに関わる法改正などが行われても、その意味をいち早く理解できるでしょう。

本記事では、カーボンプライシングの基礎知識や日本におけるカーボンプライシングの現状、その課題などを解説します。

カーボンプライシングの基礎

日本においては、

ここでは、カーボンプライシングの基礎知識を4つ解説します。

1.カーボンプライシングの意味

カーボンプライシングとは、CO2などの温室効果ガスに値段をつけることを意味します。温室効果ガス排出に伴うコストを示すことで、脱炭素社会への流れを促進させることが狙いです。

フィンランドで1990年に炭素税が導入されたことを皮切りに、欧米ではすでに様々な形でカーボンプライシングが導入されており、日本でもすでに一部導入されています。

以降、日本のカーボンプライシングについて、3つ解説します。

2.日本のCO2排出量

環境省によると、2020年の温室効果ガス総排出量は、11億4,900万トン(CO2換算)でした。
これは、前年(2019年、12億1,200万トン)比で-5.1%に相当します。

また、2020年は森林等吸収源による吸収量は4,450万トンと見積もられており、総排出量から吸収量を引くと11億600万トンの温室効果ガスが排出されたことになります。

引用:2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について(https://www.env.go.jp/press/110893.html)

3.カーボンプライシングの種類

カーボンプライシングは、大きく分けて「明示的カーボンプライシング」と「暗示的カーボンプライシング」の2つに分類されます。

明示的カーボンプライシング温室効果ガスの排出量に対して直接値段をつける方法で、排出量に比例し価格が設定される。炭素税、国内クレジット取引などが該当する。
暗示的カーボンプライシング直接的に温室効果ガスの排出量に対して値段はつけていないが、エネルギー消費量や、規制・規則に伴う必要コストとして、価格を決定している。エネルギー課税、規制に伴う設備投資コストなどが該当する。

引用:「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」 取りまとめ 参考資料集
(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cp/arikata/cp_report_ref_r.pdf)

4.日本ですでに導入されているカーボンプライシングに係る制度

日本では、カーボンプライシングを実現させる制度として、以下の3つが導入されています。

総量削減義務と排出量取引制度
(東京都)2010年〜
年間エネルギー使用量が、原油換算で1500kL以上の事業者を対象に、CO2排出量の送料削減を義務付ける。2015〜2019年度では、85%の対象事業者が自力で目標を達成し、残り15%もクレジットなどを活用して目標を達成している。
地球温暖化対策計画制度」
「目標設定型排出量取引制度」
(埼玉県)2011年〜
年間エネルギー使用量が、原油換算で1500kL以上の事業者を対象に、地球温暖化対策の計画を埼玉県に報告する。また、その実施状況も報告する。2013年度比で、2030年度には温室効果ガスの排出量を26%削減を目指す。
地球温暖化対策のための税(温対税
(環境省)2012年〜
温室効果ガス排出規制のため、原油、ガス、石炭などすべての化石燃料にCO2排出量に応じた税率で、税金を徴収する。CO2排出量1t当たり289円になるよう、単位量当たり税率を設定している。

カーボンプライシングを日本で実施する目的

カーボンプライシングを日本で導入する目的は、脱炭素の流れを加速させることです。

経済活動を行う際、一見すると価格がついてない環境資源は過剰に使用されることも多いでしょう。
しかし、カーボンプライシングで、温室効果ガス排出に値段をつけることで、自然環境も重要な資源であることを人々に意識付けして、過剰な使用を抑制する狙いがあります。

20世紀前半のイギリスでは、経済学者のピグーが、公害問題解決のため、環境汚染に繋がる行為に税金を課す「ピグー税」を考案しました。

カーボンプライシングも同じ着眼点に由来する発想です。
CO2排出量が増えることはコストになりますが、反対にCO2削減を成功させるインセンティブにもなります。

脱炭素の必要性が世界中で叫ばれているため、CO2削減に資する技術開発が進めば、海外に対してその技術を輸出することも考えられます。

カーボンプライシングを日本で実施する際の課題

カーボンプライシングの制度設計の難しさが課題になります。

制度設計は、排出量取引でCO2排出量の上限を設定する場合、現在のCO2排出量や再生可能エネルギー技術などを考慮して、納得性の高い数値を設定する必要があります。

しかし、省庁や企業間でカーボンプライシングに対する温度差が大きく、制度設計において合意を得ることは、簡単ではありません。また、企業への負担も考慮しなければならない点も、制度設計を難しくしています。

カーボンプライシング推進に向けた日本の各省庁の政策

カーボンプライシングに関しては、日本の各省庁の政策も企業活動に影響を与える可能性があるので、情報をこまめに確認しましょう。

環境省

環境省は、カーボンプライシング推進に向け、効果や影響を検討した報告書の作成や、カーボンプライシングの活用に関する小委員会などを実施しており、炭素税の正式導入を継続的に要望しています。

また、令和5年度環境省重点施策として、炭素税や排出量取引などを活用して、中長期的に温室効果ガス排出量削減を目指す、「成長志向型カーボンプライシング構想」の具体化を目指しています。

経済産業省

経済産業省は、2022年9月22日にはカーボン・クレジット市場(仮称)の実証実験を開始しました。

これは、目標以上にCO2削減に成功した場合、目標以上に削減できたCO2量を国が認し、目標を達成できなかった企業に購入してもらえる制度です。

今後は、炭素税導入時の企業や低所得者への負担や経済活動への影響を検証していくことになります。

まとめ

日本でも、10年以上前からカーボンプライシングに該当する取り組みが、自治体や政府によって行われてきました。カーボンプライシングは、脱炭素を加速させるメリットがありますが、企業への負担や制度設計の難しさが課題になっています。

また、場合によっては自治体が独自に、カーボンプライシングに関わる取り組みを開始するかもしれませんので、動向を確認しておきましょう。

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