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炭素クレジットビジネスの最新事例:国内外の注目トピックス

今や、地球規模での環境問題に直面している私たち。その一つの解決策として、注目されているのが炭素クレジットの活用です。この記事では、最新のビジネス事例から、国内外での炭素クレジット活用の成功例をご紹介します。また、個人でも手軽に参加できる炭素クレジット活用の指針をご提案。少しでも脱炭素に貢献したいと思う方々のお役に立てる情報をご提供します。

炭素クレジットとは

炭素クレジット(カーボンクレジット)という言葉を聞いたことがありますか?
炭素クレジットとは、企業や自治体、個人がカーボンニュートラルに向けた取り組みとしてCO2などの温室効果ガスを削減あるいは吸収した際に、その量に応じて発行できる取引可能な「クレジット」のことです。
例えば、企業は炭素クレジットを購入することによって、それに相当する温室効果ガス排出量を相殺することができます。つまり、排出量削減が困難な企業がカーボンニュートラルに取り組むことを可能にすると同時に、温室効果ガスの削減や吸収に取り組む企業にとっては新たな収入源となりインセンティブとして働きます。
なお、国内においては、2013年3月頃まで自治体や林業主体を対象にしたオフセット・クレジット制度と企業や農業、家庭を対象にした国内クレジット制度が統合し、J-クレジット制度としてより活発で自由に炭素クレジットの取引が可能になりました。J-クレジット制度によって創出された炭素クレジットはJ-クレジットと呼ばれます。

炭素クレジットの国内の最新事例

では、実際にどのような炭素クレジットが取引されているのでしょうか。その発行事例と購入事例をそれぞれ見てみましょう。

【炭素クレジット発行事例】

森林の保護や再生可能エネルギーの生産のような、カーボンニュートラルを目指す様々なプロジェクトによって炭素クレジットが発行されています。

三井物産フォレスト株式会社

三井物産フォレスト株式会社は親会社の三井物産株式会社が北海道に所有する森林を適切に管理して間伐を実施することで、森林のCO2吸収量の増大を図るプロジェクトを実施し、J-クレジット制度を通じて炭素クレジットを発行しました。最近では三重県でもさらに同様のプロジェクトを実施し、新たな炭素クレジット発行を目指しています。

南アルプス市

山梨県南アルプス市は、小水力発電所として、金山沢川水力発電所で発電した電力のうち芦安山岳館等の公共施設で消費した電力相当分について、系統電力からのCO2排出を削減したものとしてJ-クレジットを発行しています。2011年に90t-CO2の発行量でしたが、年々着実に発行量を増やし、2021年には157t-CO2のJ-クレジットを発行しました。

新潟県農林公社

新潟県農林公社は、新潟県内の農山村地域の活性化目的として、山村地域の森林資源の造成や環境保全のための森林の整備を推進しています。2022年11月、新潟県農林公社はENEOS株式と提携して、年間CO2吸収量10,000t-CO2規模の森林由来のJ-クレジッ ト創出事業を開始しました。なおENEOS株式会社はこれによって創出されたJ-クレジットを購入し、新潟県内をはじめとする事業活動におけるCO2排出量のオフセットに活用する予定です。

【炭素クレジット購入事例】

社会に大きな影響を与える大企業は、それだけカーボンニュートラルに取り組む責務も大きくなる傾向があります。実は誰もが知っているあの大企業も、カーボンニュートラルの達成に向けて炭素クレジットを購入しています。

ソニー株式会社

ソニー株式会社は北海道津別市の森林吸収事業や、新潟県十日町市を始めとする全国のエネルギー事業により発行されたJ-クレジットを積極的に取得しており、地域のカーボンニュートラルに貢献しています。

楽天株式会社

東北楽天ゴールデンイーグルスは、2018年8月21日の主催試合における電気使用及び観客の移動に伴い排出されるCO2について、東北地方で創出された炭素クレジットを購入することで排出量を相殺(カーボン・オフセット)しました。

豊田通商株式会社

豊田通商株式会社は、事業活動を通じた温室効果ガス排出量を削減し、2050年には実質カーボンニュートラルとすること、また、2030年に2019年比50%削減する目標を策定しています。そのための活動の一環として、2019年度には再生可能エネルギー由来のJ-クレジットを調達し、2,649t-CO2分のオフセットを実施しました。

炭素クレジットの海外の最新事例

海外ではさらに炭素クレジットの活用が進んでいます。その最新事例を見てみましょう。

テスラ社

テスラ社のEV車は、走行時にCO2を排出しない排出削減効果があります。テスラ社は、排出枠(※1)を売却することで収益化するビジネスをしています。実際にテスラ社は、EUの排出枠連合において、イタリアのフィアットに対して多額の排出枠を売却しました。また、カリフォルニア州の排出枠取引においては、トヨタに対して多額の排出枠を売却しています。
これらの成果により、テスラ社は2020年度には約1,700億円の利益を獲得し、初めての黒字を達成しました。

※1 個別の企業等に対して割り当てられた、排出を許容される量のことを排出枠という。実際の排出量が排出枠未満の企業は、それを超えている企業に対して排出枠を売却して利益を得ることができ、これを排出量取引という。

アップル社

アップル社は、2018年にアメリカの非営利環境保護団体が主導するコロンビア国内のマングローブ林再生プロジェクト(※2)に資金を提供し、10,000ha以上の規模のマングローブ林の回復に貢献しました。このプロジェクトでは、実施期間中に100万t規模のCO2を固定できると想定されており、2021年にアップル社は、このプロジェクトにより創出された17,000単位の炭素クレジットをVerra(※3)で購入しました。

※2 マングローブ林は通常の森林と比較してより多量のCO2を固定することができる。このように藻場や浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素はブルーカーボンと称される。
※3 カーボンオフセットの任意基準「Verified Carbon Standard(VCS)」の管理団体。

農業セクターにおける炭素クレジットビジネス

さまざまなプロジェクトで創出された炭素クレジットを紹介してきましたが、実は、農業セクターにおいても「グリーンカーボン」の炭素クレジット取引が盛んになりつつあります。
いくつかの事例を紹介します。

【バイオ炭】

バイオ炭とは、木材や竹などを高温処理して炭化させたもののことです。

通常木材や竹はやがて微生物等に分解されて二酸化炭素として大気中に放出されますが、バイオ炭として土壌に施用することで炭素を土壌に長期に渡って固定でき、結果として二酸化炭素の排出量を減らすことができます。海外でも盛んになっているバイオ炭(バイオチャー)の炭素クレジットビジネスですが、国内でもJクレジット化が進みだしました。
国内では、日本クルベジ協会が、農地のバイオ炭の施用による炭素クレジットの申請及び発行を支援しており、2022年には247t-CO2のJ-クレジットが認証されました。

【牛のゲップ】

牛のゲップには、温室効果の非常に高いメタンが含まれます。
なぜ、牛のゲップが注目されているかというと、メタンは二酸化炭素に次ぐ地球温暖化に及ぼす影響が大きい温室効果ガスであり、その地球温暖化への影響度が二酸化炭素の28倍のインパクトが大きいからなのです。 海外が先行して、牛のゲップの対策技術、スタートアップなどが盛んになっています。そのなかで、農業技術企業のMootral社は、天然飼料サプリメントであるMootral Ruminantを開発して、排出されるメタンの量を最大38%削減することに成功し、世界で初めて牛による炭素クレジットを発行しました。

個人で取り組める炭素クレジットビジネス

ここまでは大手企業や自治体等が発行した炭素クレジットを紹介してきましたが、個人で炭素クレジット市場に参加することはできないのでしょうか。
実は、炭素クレジットは個人でも購入することができます。さらに最近では脱炭素に貢献している商品で炭素クレジット付きの商品を購入することで、間接的にCO2の排出量削減に貢献することができます。

また、弊社では、個人が移動に伴う自らのCO2排出量を削減することで、インセンティブをもらえるようなサービス「EARTHSTORY」を自社開発し、提供を開始しています。
>>EARTHSTORYの詳細はこちらをご覧ください。

まとめ

世界的に炭素クレジットの取引が盛んになりつつある中で、企業のみならず個人でも脱炭素に貢献して炭素クレジット市場に参加できることが分かりました。 今後さらに新しい仕組みやサービスが生まれ、新たなビジネスチャンスとなることが予想されますので、常に最新の情報をキャッチすることが重要です。

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