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マングローブ再生が地球を救う?!インドネシアの最前線から【後編】

目次

【前編 目次1.-4.からつづく】→
5.マングローブ植林の一連の流れを体験
6.新たに感じたマングローブの可能性(観光資源、経済効果として)
7.マングローブ植林活動を通して見えてきた課題

マングローブ植林の一連の流れを体験

マングローブの保全・植林の意義を再確認できたところで、実際に行った植林活動の様子をお見せします。
ホストファミリーの一人で、現地の活動をリードしているTayoさんとともに、マングローブの種子採取から、生育域に植林するまでの一連の流れを体験しました。

①マングローブの種子採取

小舟で海へ出て、Bakauの種子を採取!

街中にも生えていた別の種類、Api-Apiの種子これは一部ですが、ざっと500個以上拾ってきました!

②種子を持ち帰って、ビニールポットに植える

Bakauをビニールポットに植えた様子

Api-Apiの種子も同様に植えます。(左から自分、日本人ボランティア、現地学生)

③毎日たくさん水をあげる
午前と午後の2回、じょうろでたっぷり水をあげます。

auの種子から芽が!

こちらApi-Apiも順調な様子

一時水を川から汲み上げるポンプが動かなくなって、自力で水を汲み上げていました(笑)

④いよいよ苗を植林します
これは大変だった。裸足で泥の中を進んで、一本一本植えていきます。

転けそうになりながら一枚

元気に育ちますように!

今回は植林の一連の流れを体験しましたが、植えた苗が立派なマングローブに成長するまでには、10年〜20年もの歳月がかかるそうです。まだまだこれからですが、次世代に思いを繋ぐためのバトンになるといいですね。

新たに感じたマングローブの可能性(観光資源、経済効果として)

マングローブの持つメリットが大きいことは先ほども述べましたが、実際に現場に滞在し、初めて気づくことができたマングローブの魅力がありました。
それは「観光資源」としてのマングローブの潜在的な価値です。実は私たちが活動していた拠点は、現地の人たちが協力して設立した「マングローブ公園」に隣接していました。ここには、周囲を緑に囲まれたカフェテリアと、広々とした休憩所があり、時間がゆったりと流れる本当に素敵な場所だったのです。

竹で作られたカフェテリアと、そこから見えるマングローブの子供たち

屋根の立派な休憩所と、心地良さそうな猫

自然って美しい、と書かれています。
活動の休憩時や昼食の時には、このような場所でゆったり自然を眺めたり、お昼寝をしたりしていました。インドネシアは暑いと思われるかもしれませんが、風があって蒸し暑い訳ではないので、日陰だと全然東京より涼しくて過ごしやすかったです。
そしてここマングローブ公園は、地元の子供達の憩いの場にもなっていましたし、植林の手伝いに来てくれるTayoさんの友人や環境団体の方々もたくさんいました。

もちろんここで活動している人たちはみんな、環境保全という任務を負っている。
でもそれ以前にみんな、この場所、景色、人が好きだった。
それは、「何でここで活動しているのか」と質問すると、理屈じゃなくてそういう答えが返ってくるということ。
ああ、別に誰も反論できないようなロジックがそこにある必要はないんだ。
そして、ここに身を置いた自分も、この場所、景色、人が好きになった。


これに気づいた時が、環境保全のボランティアに来ているということを忘れた瞬間でした。同時により多くの人にこの魅力を知って欲しい、つまり観光資源としても大きな価値がある、と感じた瞬間でもありました。
この地域には、今回植林した数種類だけではなく、さらに多種多様なマングローブが生育しています。そういったマングローブはそれぞれが特徴的な見た目を持っているので、現地の詳しい人にマングローブ観察ツアーみたいな感じで案内してもらうのも、とても魅力的な体験になると思います。
マングローブを利用して何かを作る体験も面白いと思います。実際今回は、Pidadaの実を使ってマングローブシロップを作る体験をしました。

ここでしか飲めない手作りマングローブシロップ!

そして、負担にならないくらいにマングローブ植林をやってみて少し汗をかく。
疲れたら休憩。自然の中で現地でしか食べられないローカルフードを食べながら、現地の人と会話を楽しむ。
夕方になれば、美しい夕日に心を打たれ、足を止める。

美しい…

こういった形の体験は、最近よく「エコツーリズム」として注目を集めていると思います。実はこのボランティア活動に参加するまでは、エコツーリズムって、なんか環境に対する意識が高い人がするものだし、敷居が高そう、というイメージがありました。
しかしここに来てみて、「エコツーリズム」こそが本来あるべき観光の形だと思いました。

キラキラした写真をSNSにあげるための観光。
それは、あくまでも「自分」が中心で、「自分が特別」だと思う「ため」の観光。もちろん自分にとってのご褒美や何かのモチベーションとしては良いと思う。
でも本来あるべき観光の姿は、訪れる現地のことを本気で知ろうとして、迎えてくれる現地の人を想い、現地のことを大切にする、そんな観光だと思う。
中心なのは「自分」ではなく、あくまでも「相手」
「特別」なのは「自分」ではなく、そこにしかない自然、景色、文化、食、そして人。
その結果、気がつけば環境にとっても良い持続的な観光、つまり「エコツーリズム」が実践できているのではないだろうか。


活動を終えた今、マングローブは特にインドネシアにとって、観光資源として大きな潜在価値を持っていると改めて感じています。なぜなら、インドネシアは世界最大のマングローブ面積を持つ国であり、エコツーリズムを実践できる場所がたくさん生まれるポテンシャルがあると思ったからです。もちろん過度なリゾート開発などをすれば本末転倒ですが、現地にとって大きな経済効果を生むことができるかもしれません。

マングローブ植林活動を通して見えてきた課題

今回のボランティア活動は非常に短い期間ではありましたが、活動を通して見えて課題をいくつかあります。

①マングローブ保全・植林のために活動する人たちの収入の増加
現地の方とお話しした時、マングローブを1本植えると150ルピア~250ルピアが環境団体から支払われると聞きました。(インドネシア語→英語の翻訳だったので精度が微妙ですが…)これは日本円にして1.5円〜2.5円くらいに相当します。物価はもちろん違いますが、一本植えるまでにかかる労力を考えるととても安いと感じました。
これはとても大きな課題ですが、解決が難しい課題でもあります。
なぜなら、一本植えることによる価値を、誰もが納得する手法で算出することは難しいうえに、その一本植えたことによる恩恵を、今すぐ目にみえる形で、誰かが直接受け取ることは困難だからです。簡単に言えば、経済的価値として定量化することが難しいのです。
その課題に挑戦しようとしているのが、いわゆるカーボンクレジットのスキームやWeb3領域の特にReFiと言えるでしょう。また、観光資源としての価値をいかに上手に利用していくかも、長期的な目線では重要になってくると思います。

②自分も含め私たち全員が負うべき責任と課題
これは他でもなく、私たち全員が負うべき責任ですが、それを実践するのは難しいと感じた課題でもあります。
「マングローブの現状」で、インドネシアのマングローブはその多くが集約的なエビ養殖場の開発によって失われたと述べました。
しかし、それは当然、人口増加による食糧需要の増加に応えたからです。そして、エビを大量に輸入する外国企業が安い価格を求めるからであり、もっと言えば、私たちがスーパーで食材を買う時や外食をする時、より安い価格を求めるからに他なりません。
最近でこそ、トレーサビリティやサプライチェーンの透明性が重要視されてきています。しかし、遠い海外から輸入される食材が、どこで誰によって「どのように」生産されているかに関しては、ほとんど意識していないことが多いのではないでしょうか。
従って、私たち一人ひとりは、自分の日頃の消費行動が、自然環境や生態系とも密接に関わっているという意識を持つ必要があります。そして、環境に配慮された商品には、より高い対価でも払うといった、責任のある消費行動に変えていかなければならないと思います。

まとめ

今回のボランティア活動では、豊かな自然に囲まれてマングローブ保全に貢献することができ、また現地の方々ともたくさんの出会いがあり、非常に充実した経験ができました。
その一方で、日頃の自分の生活を振り返るきっかけにもなりました。地球温暖化を始めとした環境問題に取り組むことは、この地球に住む私たち全員の責務であり、一人ひとりが意識・行動ともに変えていかなければならないと感じています。
今地球で起きていることを知る努力をするとともに、無駄な消費を控えて環境に配慮した商品を購入するなど、日頃の意識・行動をアップデートしていきたいです。

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